その実験、ddYでいいの?
新しく学部の3年生とか修士課程に入学した学生さんも、そろそろ自分のテーマで実験をし始めて、こなれてきてミサワ化する時期ですが、いかがお過ごしでしょうか?
動物学特論、最初の講義ですが、日本の薬学部系の研究室にケンカをうろうと日本で伝統的に使われているddYマウス
について書こうと思います。
ddYマウスの主な供給元:
日本SLC http://www.jslc.co.jp/
九動株式会社(旧セアック吉富) http://www.kyudo.co.jp/about_seisan_01.html
ddYマウスって書くと、ちょっと生命科学系に関わってる人なんかは『マウスの系統だ』と答えてくれるかもしれません。”系統”が指す意味にもよりますが、厳密には、彼らはクローズドコロニー(closed colony)であり、近交系統(inbred strain)ではありません。
クローズドコロニーと近交系の違いは次回以降に回すとして、大雑把に言えば、すべての遺伝子座がhomozygoteになっているのが近交系で、それ以外のマウスで、集団として特徴的な形質を保持しているのがクローズドコロニーです(大雑把)。
違う近交系同士を掛け合わせた第二世代(F2)以降のマウスなんかは、近交系ではないですが、集団として特徴的な形質を保持していないので、クローズドコロニーではなく、雑種(outbred)です*1。厳密な定義は、近交系もクローズドコロニーももっと複雑です。
さて、このddY。名前の由来は、ドイツマウス、伝研*2、予研*3のそれぞれの頭文字をとってddYとなっています。つまり、日本で樹立・維持されたネズミなんですね。ドイツマウスっていうのは古い時代のクローズドコロニーで、維持していた国名が付いているもので、他にもスイスマウスとか呼ばれます。
ドイツマウスを日本に導入したのが伝研で、その後、予研で維持されていたのでddYという名前になっている、ってことです。
ですので、pubmedで[ddY mice]と検索すると、見事に日本人の論文だけがずらっと並びます。2012年まで遡っても、日本以外の論文はレビュー1件を入れても4件です。
だからと言って、国内誌だけなのかって言うと、そうではなく、ちゃんと海外の有名誌にも論文が載っています。
で、タイトルに戻るんですが、ddYマウス使って取りたいデータが何なのか?ってことをミサワ化した頃に考えるのがいいと思うんですね。少なくともこのddYは有名なクローズドコロニーであるICR*4と違い、ほぼ日本で使われてます。
自分の実験が世界中の人に追試されて、ホントかどうか確かめられるってのには少し向かないマウスなのかなとも思います。もちろん、主に国内の薬学部系のラボで長年蓄積したバックデータがあることは非常に重要ではあるのですが
ということで、次回は”じゃぁ、C57BL/6使えばいいのか”というところを講義します
あ、クローズドコロニーなんで、供給している機関の名前が左に、「:」ではさんで、系統名が右に来ます。ちなみにDDYって書くと、”近交系のDDYマウス”のことなんで要注意でっせ