じゃぁ、C57BL/6マウスを使えばいいのか?

答えは、端的に言えば、”ほとんどの”場合がYes

 

http://jaxmice.jax.org/images/jaxmicedb/featuredImage/000664_lg.jpg

写真は、Jackson研究所HP C57BL/6J http://jaxmice.jax.org/strain/000664.html 

 

主な供給元:

日本クレア http://www.clea-japan.com/animalpege/a_1/e_02.html

日本SLC http://jslc.co.jp/mice/c01_f.htm

日本チャールズリバー http://www.crj.co.jp/product/domestic/detail/25

 

動物学特論です。こんな書き方をすると、遺伝学がご専門の方々に怒られそうですが、バックデータが最も集積しているという意味では、ほとんどの場合で間違いではないと思います

 

本来はこの問いかけ自体があまり意味はなくて、例えば、様々な種類のイヌをいっぱい集めて来て、”この中でもっともイヌらしい品種を決めよう”と投げかければ、全員が違う犬種を指す・・・みたいな話です。

 

同様の話で、「マウスはヒト疾患モデルには向かない」という論文が定期的に出てくるんですが(本質的には当然そうなんですが)、実は特定の系統だけを見ている場合が多く*1、「単にモデルの選定ミスじゃないか?」って指摘がされる*2*3までが様式美です

 

ただ、”ほとんどの”と書いたのには理由があります。

 

C57BL/6のJかNかを気にしてみる

C57BL/6系統がどのようにして樹立されたかについては、総説やJackson研究所のHPを見に行ってもらうとわかるので割愛するとして、ここ最近、C57BL/6JとC57BL/6Nの違いが立て続けに報告されました*4

 

Mekadaらの論文*5に、C57BL/6がどのように「J亜系」と「N亜系」に分かれていったのかが、一塩基多型マーカー(SNP)を使って詳しく書かれています。ここでいう亜系とは、同一の近交系の中で、それぞれ別の近交系とまでは分かれてないけど、明確に区別できる集団のことだと思って下さい(大雑把)。これも定義は、結構複雑です。

 

それによれば、元々のC57BL/6系統から1948年にF24でJ亜系が、1951年にF32でN亜系がそれぞれ分かれていったとされています。のちのちになって、NIHで維持していたC57BL/6亜系をC57BL/6N、Jackson研究所で維持していたC57BL/6亜系をC57BL/6Jとしたわけです。

 

この時(1976年から1984年にかけて)、J亜系にだけ、突然変異が入り、Nnt(nicotinamidenucleotide transhydrogenase)遺伝子のエキソン7から14が欠損してしまいました。C57BL/6Jマウス、最大の特徴といってもいいと思いますよ、これ。

 

 

このNntの変異については、ヒトの家族性疾患と関連していることが示唆されていたり、高脂肪食誘導型肥満(diet-induced obesity, DIO)の表現形がNnt-/-とNnt+/+では異なることが示唆されていますが、Nnt+/+だからと言ってDIOの反応性に差はないということになってます*6。つまり、ちゃんとC57BL/6Nでも脂っこいもの喰えば太ります。

 

”しかしながら”、Nnt自体はミトコンドリアでの酸化ストレスに関わっているので、その辺*7を研究してる方は、当然、C57BL/6Jは問題があることになります。表題の答えですね。

 

Simonらの論文は、この古典的なNnt変異以外にも、多くの差異があったことを示していますので、興味がある方はどうぞ。

 

結論としては、

  1. 同じ実験系で意図なく、NとJを混ぜて使わない(大前提)
  2. かといって、日本ではKOマウス作製用にC57BL/6N由来のES細胞*8が広く使われているので、どうしてもC57BL/6Nになっちゃうことがありますよ
  3. 論文で「C57BL/6」とJなのかNなのかわからない書き方してる時は、とりあえず眉間にシワよせてみる

 となります。うん。

 

 

ちなみにJackson研究所のHPでの回答

Which B6 strain is best for my studies, the B6/J strain or its substrain the B6/NJ?

 

Using a consistent strain background will promote generation of more consistent data.

ごもっとも。

 

 

次は、「飼育環境を一定にすることは何故重要なのか?」について講義します。

*1:例えば、 Seok J, Warren HS, et. al. "Genomic responses in mouse models poorly mimic human inflammatory diseases", PNAS. 2013 26;110(9):3507-12.とか

*2:"Are Mice Reliable Models for Human Disease Studies?" http://understandnutrition.com/2013/02/14/are-mice-reliable-models-for-human-disease-studies/

*3:"Why mice may succeed in research when a single mouse falls short" http://community.jax.org/genetics_health/b/weblog/archive/2013/02/13/why-mice-may-succeed-in-research-when-a-single-mouse-falls-short.aspx

*4:主なものとしては、Simon MM et al.  "A comparative phenotypic and genomic analysis of C57BL/6J and C57BL/6N mouse strains" Genome Biol. 2013 31;14(7):R82.とか

*5:Mekada K, Abe K et al. "Genetic Differences among C57BL/6 Substrains" Exp Animals 2009 58; 2: 141-149

*6:"Influence of Nnt alleles on DIO in C57BL/6 JAX® Mice" http://jaxmice.jax.org/jaxnotes/511/511n.html

*7:この辺 http://www.abcam.co.jp/index.html?pageconfig=resource&rid=15177

*8:新潟大学脳研究所・崎村研究室HP "C57BL/6由来ES細胞株RENKA" http://www.bri.niigata-u.ac.jp/~cellular/research.html