C57BL/6の華麗なる一族

理研とはまったく縁のない動物学特論です。遠目で「あれが、理研かー」くらいはあります。憧れはありましたけどね

 

さて、前回に引き続き脱線したままの特論ですが、今回は某所の記事*1にあったもう一つの系統であるC57BL/6(いわゆるB6マウス)について書こうと思います。

 

C57BL/6マウス

http://jaxmice.jax.org/images/jaxmicedb/featuredImage/000664.jpg

(写真は、Jackson研究所HPより引用 http://jaxmice.jax.org/strain/000664.html

 

だいぶ前の記事でも紹介しています。

じゃぁ、C57BL/6マウスを使えばいいのか? - doubutsutokuronの日記

 

C57BL/6は、1921年にCC. Littleが樹立したC57BL系統というマウスに由来します。

 

この「C57」というのは、A. Lathropという方が作ったマウスファームから買ってきたCode No. 57という雌マウスと、Code No. 52という雄マウスから生まれてきたマウスであることを示しています。

 

実はこの時に、同じ親から生まれた別の近交系としてC57BR、C57Lという2つの系統がいます。もうお分かりだと思いますが、BLはブラック(黒毛)、BRはブラウン(茶色)、Lはライトブラウン(leaden, 鉛色)を示しています。

 

C57BRマウスは他のC57系と比べて、睡眠の取り方が他の系統と異なっていたり、学習効率が良かったりするなどの報告があったり*2、また、C57Lマウスは腫瘍の研究だったり、実験的自己免疫性脳脊髄炎のモデルとして使われたりしています。

 

C57L/J

http://jaxmice.jax.org/images/jaxmicedb/featuredImage/000668.jpg

(写真はいずれもJackson研究所より引用 http://jaxmice.jax.org/strain/000668.html

 

どちらも日本国内にいることはいるんですが、ちょっと入手しにくいところに居たりします。

 

ちなみに、このLathropさんは、切手の図柄になったりする程、現在のマウス遺伝学で重要な人物なのですが、それはおいおい書きます*3

 

 

このCode No. 57(と52)から生まれたC57系統の中で、繁殖が最も容易だったのがC57BL系統であり、以後、このマウスを中心に様々な研究が行われることになるわけです。つまり、今日われわれがC57BL/6を主なマウス系統として使ってる理由は、元をたどれば「増えやすかった」の一言ですむわけです、ええ。

 

 

こうやって作出されたC57BL系統は、さらに別の近交系へと分かれて行きます。主なもので

  • C57BL/A
  • C57BL/An
  • C57BL/GrFa
  • C57BL/KaLwN
  • C57BL/6
  • C57BL/10
  • C57BL/Ola

などがあります*4

 

特に、C57BL/10系統はC57BL系統を由来とする近交系の中では、C57BL/6の次に有名なもので、ほとんどC57BL/6と同じ特徴を持っていますが、リンパ腫を高発することなどがちょっとだけ違います。

 

C57BL/10

http://jaxmice.jax.org/images/jaxmicedb/featuredImage/000665.jpg

(写真はJackson研究所より引用 http://jaxmice.jax.org/strain/000665.html

 

実はこのC57BL/10は、C57BL/6よりもさらに繁殖が容易で、しかも高齢になっても交配が可能という特長を持っていて、前述の理屈から言えば、こっちがメインになるはずだたんですが・・・まさに不遇の王者というか、なんというか

 

これらのCode No. 57の子孫たちは、それぞれ近交系に分かれたあとに、維持している研究機関によって亜系統に分かれて行きます(例えば、C57BL/6はNIH維持のものが、C57BL/N、Jackson研究所維持のものがC57BL/6Jになります)。

 

国際命名規約*5に従えば、「/」の右側にこの亜系統名を書くことになっているので、ここをみれば、維持している研究機関がわかります。ただC57BL/6・C57BL/10およびDBA/1・DBA/2、BALB/cなどは例外ですので、6や10、1・2、cの右側からが亜系統シンボルになりますのでご注意。

 

それではどっかで “Mouse Woman of Granby”(グランビーのマウス女)こと、Abbie Lathropの話を書きたいと思います。では最後にカッコいい言葉の引用で

The introduction of inbred strains into biology is probably comparable in importance with that of the analytical balance in chemistry.
- Hans Gruneberg 

 

*1:http://www.nikkei-science.com/wp-content/uploads/2014/06/20140611STAP.pdf

*2:残念ながら、入手困難な論文ですが Pagel J et al. "The relationship of REM sleep with learning and memory in mice." Behav Biol. 1973 Sep;9(3):383-8.

*3:Jackson研究所でもCC. Littleだけではなく"from Miss Abbie Lathrop's stock"とLathropの名前を挙げて、敬意を示しています

*4:ここを参照して下さい http://www.informatics.jax.org/external/festing/mouse/docs/C57BL.shtml

*5:http://www.jalas.jp/pdf/iczn.pdf