IMSR(International Mouse Strain Resource)を使って欲しいマウスを手に入れる その弐
色々あって本体の『動物学特論』が終わるので*1、その残滓のような"なにか"を綴っています、特論です。
前回の手順1でIMSRを使って、自分が目的としているマウスを検索したので、それ以降の手順について書いときたいと思います。
手順2 検索結果から欲しいマウスを選ぶ
前回も少し書きましたが、この「系統名」の部分は国際命名規約というルールで書かれているので、そっちを知っとかないといけません。
例えば、shhで検索すると、
- B6;129-Shh<tm2Amc>/J
- B6.Cg-Shh<tm1(EGFP/cre)Cjt>/J
- STOCK Tg(Shh-EGFP)BF167Gsat/Mmmh
とか出てきます。実際のルールについては、きちんと日本語でも説明している文章が公開されてる*2ので、そちらを参照して下さい。
簡単にまとめると、左側が遺伝背景(バックグランド系統)で、ハイフン(STOCKの場合、スペース)より右側が遺伝子変異の情報です。
ですので、
- のマウスは、C57BL/6と129の交雑系統がバックグランド(「;」はバッククロスが完了していない場合の記号)
- のマウスはC57BL/6がバックグランド(「.」は右側の系統から左側の系統にバッククロスが完了したという記号)
- のマウスは、バックグランドが不明(「STOCK」は由来が不明な場合の記号)
ということになります。
遺伝子の3文字表記の説明は別のところに譲るとして、大きく分けて、①変異導入*3ノックアウトの場合は、上付き文字でtmをつける、②トランスジェニックの場合は、Tg( )で表記するとなっています。
ただ凄く注意が必要なのは、tmと表記してあるマウスでも単純なノックアウトだったり、loxPが入っていて、creと掛け合わせなくてはいけないものや、2のマウスのように、別の遺伝子がshh遺伝子座に発現しているもの(ノックイン)などありますので、
"必ず、遺伝子変異の情報はそれぞれのリソースバンクのリンクページでじっくりと確認すること"
が重要です。国際的なノックアウトマウス作製プロジェクト*4とかだとtmの右側で(EUCOMM)みたいに書いてあったり、ENUミュータジェネシスプロジェクトで作った変異体だと、突然変異体のように、上付き文字にtmつかなかったりもします。
じゃぁこの解説記事、意味ないじゃんか!と言われれば、ええ、まぁそうですね...
また、tmやTg( )の右横の数字とかアルファベットは、それぞれライン番号(同じラボ・人物が作った同じ遺伝子改変マウスにおける作った順番)とラボコード(作った人とかラボの記号)なので、ランダムインテグレーションを用いたトランスジェニックマウスの時には、重要な記号になります*5。同様に、KOの時は、欠失している部位などがラインによって違う場合があるため、注意が必要です。
手順3 マウスを導入する方法を考える
このブログを読んでる海外の研究者の方なんてたぶん、ほとんどいないでしょうから、日本向けに。
①RepositoryがRBRC、CARDになっている場合
一番簡単です。すぐにRBRCなら理研BRC、CARDなら熊本大学CARDに連絡して下さい
②RepositoryがJAXになっている場合
この場合も、割と簡単です。日本チャールズリバー(あるいはその取次店)に連絡すると購入できます。ただ、Statesが「Live」の場合はすんなりと行きますが、「Sperm」や「Embryo」になってる場合は、ちょっと時間とお金が余計かかったりします。今のところ、JAXから凍結精子や受精卵を直接購入するのは、チャールズリバーは取り扱ってくれないんですよね...
③RepositoryがMMRRCになっている場合
MMRRC*6って、NIHのサポートで遺伝子改変マウスの保管してる機関ですね。この場合は、Statesがほとんど「Sperm」と「Embryo」になっていると思います。
ここで特論=サンがおススメするのが、「Sperm」での導入です。
理由は、①生体導入よりも値段が安い、②導入までの時間が短い、③SPFクリーニングと原理的に同じIVF-ET(体外受精ー胚移植)を行うので、受け入れ機関での検疫がいらない(※必要な施設もあります)、④ドライシッパーの輸送なので手続きが簡単などなど。実際には、ポチッとした後に、メールでやりとりして、ワールド・クウリアー*7(ワールド・クーリエ)に持ってきてもらって、所属されてる研究機関の動物実験施設に引き渡して、IVF-ETしてもらうだけです。
所属してる機関で、凍結精子からのIVF-ETができない場合は、理研BRCさんで代行してもらえます*8。私も仕事もらえれば*9、やります
④RepositoryがEMになっている場合
EM...響きがなんかアレ。EU圏のEMMA(The European Mouse Mutant Archive)*10のことです。
この場合で一番手っ取り早いのは、「Embryo」での導入です。受精卵を買って、ドライシッパーで送ってもらって、以下、③と同じです。
このケースでも、所属してる機関で凍結受精卵からのET(胚移植)ができない場合には、理研BRCさんに代行してもらうことが可能です。
他にもTIGM(Texas A&M Institute for Genomic Medicine)あるけど、長くなったんでこの辺で。
特論でした
*1:お察し下さい
*3:ご指摘いただき、修正しました
*4:International Knockout Mouse Consortium - MartSearch
*5:受精卵へのマイクロインジェクションで、ランダムインテグレーションによって遺伝子導入された場合、胚移植後、同じ日に生まれてきたマウス同士でも、導入遺伝子のコピー数が異なるため、表現形が変わってくることがあるため
*7:http://premium.ipros.jp/worldcourier/
*8:FIMRe機関の凍結マウスリソースの個体化の申込み手順 « -実験動物開発室-
*9:お察し下さい
*10:EMMA - the European Mouse Mutant Archive , https://www.infrafrontier.eu/