虹を掴むマウス・BALB/c
前回の記事で、Abbie Lathropの話をちょろっと書いたので、いつかマウスの研究に重要な人々の記事書きたいなぁとか思ってます。海外の先駆者たちだけでなく、日本で最初のマウス飼育施設を、”私費で”作った野村達次とか
さて、マウスの系統紹介第3弾として、『白いネズミといえば、ICRかこのネズミ』っていうくらいのアルビノマウスの定番・BALB/cについて書きたいと思います。
BALB/c
(写真はジャクソン研究所から引用 http://jaxmice.jax.org/strain/000651.html)
免疫などの研究では本当によく用いられます。あとは、クローズドコロニーの中に生じた突然変異であるFoxn1<nu>を交配により導入した、免疫不全マウス BALB/c-Foxn1<nu>(ヌードマウス, 交配による変異導入を行っているので正式には、C.Cg-Foxn1<nu>)も論文などでよくみかけると思います*1。
CAnN.Cg-Foxn1<nu>/CrlCrlj (ヌードマウス)
(写真は日本チャールズリバー社から引用 http://www.crj.co.jp/product/domestic/detail/29)
BALB/cの名称は、1913年にHalsey J. Bagg博士が発見したマウスということで、”Baggのアルビノ(albino, 白毛に赤い目)”から来ています。
このマウス、オハイオ生まれの”ニューヨーカー”と言う事でJames Thurber*2だと思って下さい。あ、どうでもいい脱線です。
1920年にBaggからCC. Little、E.C. MacDowellとG. Snellに分与され、それぞれに維持されます。現在使われているBALB/cは、この時、G. Snellがジャクソン研究所で維持していたものになります。
もうお分かりですよね、このBALB/cをジャクソン研究所で最初にコロニー維持した人物こそ、1980年にノーベル生理学・医学賞を受賞したGeorge Davis Snellその人です。
その後、Snellはこのマウスを1935年にNIHに送り、この白い毛の色(color)の遺伝子座を示すためにc/cと表記したことで、Bagg's Albino c/cの頭文字をとってBALB/Cとなり、命名法決定後にBALB/cとなりました*3。
ちなみに、よく日本語の文献でみる「Balb/c」などは、大文字と小文字で別の意味があるマウス命名法では明らかな間違いなので、気を付けて下さい。略号も「BALB」や「B」ではなく、「C」ですよ
BALB/cは、BALB/cJ(原系統)とBALB/cByの異なる二つの亜系統が知られており*4、それらの間で表現形の違いがあります。この点は、特に、日本で手に入るBALB/cについては注意が必要です。
BALB/cBy
(写真はジャクソン研究所から引用 http://jaxmice.jax.org/strain/001026.html)
何がまず違うかというと、増えやすさが違います。原系統のBALB/cJはなかなか増えない系統であるのに対し、By亜系は安定して繁殖することが知られています。ゲノム上では17番染色体の一部に差異が発見されており、性格としては、攻撃的なBALB/cJに比べ、By亜系では攻撃行動はそれほど顕著ではありません。
また最も重要な亜系統間差として、腫瘍形成の差も報告されています*5。日本で売っているBALB/cは由来が不明瞭なものもありますので、これらの点を踏まえて、”少なくとも同じ実験で亜系統を統一して用いる”ことが非常に重要です。
というわけで、次マウスの紹介するときはDBA/1・DBA/2あたりを書きます。特論でした
*1:ちなみにヌードマウスは別にBALB/cバックのものだけでなく、C57BL/6バックのもの(B6.Cg-Foxn1<nu>/J)やAKR/Jバックのものあります
*2:映画「虹を掴む男」とか「LIFE!」の原作の人
*3:この時にNIHなどに送っていたおかげで、ジャクソン研究所の火事になった際に、元系統がなくなるという事態を避けられたりしてます。バックアップ超大事
*4:細分化すると、他にもBALB/cGaJ、BALB/cGrRkJ、BALB/cWtEiJなどがあります
*5:JAXのページ参照 http://jaxmice.jax.org/jaxnotes/archive/430a.html