実験動物管理者、始めました(ペントバルビタールの代わりの話)

ドーモ、深夜アニメがいっぱいあるので東京で働きたくなりましたが、アテはありません、特論=サンです。

 

前回書いたように、「第4回 実験動物管理者研修」に行ってきました。

公益社団法人日本実験動物学会:講演会・講習会

 

二日間、朝から夕方までぶっ通しで講義を受けるという、結構ハードな研修なんですが、法令から動物福祉、日常管理と初学者から実際の管理業務を行う教員まで、それなりに色んな新しいことが学べる研修だったと思います*1

※講習会のテキストは、作成者の著作なので、UPしません。基本的には常識の範囲内の引用のみです

 

ペントバルビタール単剤投与が「不適切な麻酔」になりつつある点について

なかでも、マウス・ラットの麻酔の話は興味深かったので、記事にしようと思いました。国立国際医療研究センターの岡村先生が講師でした。

たぶん、一度お会いしたような気もしなくもないけど、向こうは、当然特論の事など知らない、くらいのアウエー感で講義受けてるという縛りプレイ前提です。

 

私が学生の頃はネンブタール(ペントバルビタール)麻酔が一般的で、これまで使い続けてきたんですが、疼痛の管理が難しいことや、麻酔時の動物死亡事故が多いことから、規制の方向に進んでいました。それが、最近の海外の教科書でも「不適切な麻酔」として書かれたらしく*2、いよいよ使えなくなってきているそうです(ジエチルエーテルと、アバチンなども)。

実験動物の 不適切な麻酔方法

 

せやかて工藤

そうなると、注射麻酔としてはケタミン/キシラジン、吸入麻酔としてはイソフルラン、セボフルランとなってくるわけですが、吸入麻酔は器具が高いし(1台 60万円前後)、ケタミン/キシラジンは麻薬研究者とって管理が大変だし・・・

 

ということで、岡村先生のグループでは、メデトミジン(α2アドレナリン受容体作動薬)、ミダゾラムベンゾジアゼピン系麻酔導入薬・鎮静薬)、ブトルファノール(オピオイドリガンド)の三種混合剤*3を使用していて、プロトコールを公開しています

 

"三種混合麻酔薬と拮抗薬((独)国立国際医療研究センター研究所 動物実験施設)"

http://www.rincgm.jp/department/lab/08/pdf/mouse.pdf

 

現状のメリット

・i.p.で効く

・効果が早い(i.p.後3.6分くらいから効き始める)

・メデトミジンの拮抗薬であるアチパメゾールを打つことで、速やかに覚醒させることができる(ここ重要, 実験室でぼーっと待っている時間が短くなる)

 ・三種混合した薬剤は、室温で1ヶ月は保管可能

・受精卵移植に用いた場合、着床率・産仔率に影響はない(これは吸入麻酔でも同じ)

 

デメリット

・記憶などの麻酔薬で影響があると言われているような領域での使用例は、これまでのところない

・覚醒後の体温変化が吸入麻酔とは異なる

 

まぁいずれにしても、私も同様の実験を行って、効果を確かめてみようと思います。

 

 

蛇足

研修のテキストで、次のような文章が複数あるんですが、

BALB/c  ・繁殖、飼育が容易

DBA/2 ・聴原性てんかんを起こしやすい 

これはミスリードです*4

 

過去記事にも書いてるんですが、

 

虹を掴むマウス・BALB/c - doubutsutokuronの日記

 

BALB/cは亜系統によって、”増えやすさ”が異なることが知られています。容易に繁殖できるのは、ByやA亜系の話であって、元々のBALB/c系統全般に言えることでないです。

 

あと、DBA/2はasp2の変異を持っているため、確かに若い個体では聴原性の発作を頻発しますが、成獣では感受性は低くなります。というのも、彼らは加齢により(離乳期から始まる)高頻度で難聴となりますので、但し書きなしで、前述のような書き方はあまりしません*5

 

 

というわけで、晴れて研修が終わり「実験動物管理者」となりましたが、給料は代わりません。特論でした。

 

追記(2015年3月10日)

 どうやらこの3種の薬剤、地方によっては買うのが難しい場合があるようです。私の職場の自治体と隣の件では、研究機関向けの販売窓口ありませんでした(臨床獣医師さん向けとは別)。なんとか購入できそうですが、メモまで

*1:2015年度は京都と、東京で2回開催されるようなので、ご参考までに

*2:Flecknell, P. Laboratory Animal Anaesthesia 3rd Ed. Academic Press 2010

Fish, R. E. et al Ed. Anesthesia and Analgesia in Laboratory Animals 2nd Ed. Academic Press 2008

*3:Kawai S, Takagi Y, Kaneko S, Kurosawa T. ”Effect of three types of mixed anesthetic agents alternate to ketamine in mice.” Exp Anim. 2011;60(5):481-7.

*4:困ったことに日本語の教科書とか説明してるサイトでも多くがこう書いてたりしますが

*5:JAXのページ http://jaxmice.jax.org/strain/000671.html

研修(前夜)

新宿というには違和感を覚えるほど人影の少ない路地を入って、今日の宿を目指すと、百円均一で買った粗末な折り畳み傘が風でキシキシと悲鳴を上げる。『新宿公園→』という白い看板がぼうっと暗がりに浮かび上がると、妙に物悲しくなって、小雨の中を立ちすくしてしまったのだったー

 

あ、どうも特論です。『ハケンアニメ!』って小説読んでたせいで、カンフー映画を見てきた昭和の子供みたいに小説書きみたいな文章使ってみたくなってます。病気です。

 

ハケンアニメ!

ハケンアニメ!

 

 

ハケンアニメは、最初『SHIROBAKO』みたいかな?と思いましたが(冒頭の数ページはそのとおりですが)、 王子編の終盤の台詞とかいいですね。あと”悪い人のいない職場”という意味が、現職にも当てはまって、あのページから読む速度変わってきました。

 

と、前置きはここまでで、ようやく来年のお仕事も決まったので、休みを取って、研修に来ています。冒頭の駄文の通り、新宿にいるんですが、170名くらいの同業者がこのあたりにいるはずなのに、何もお声がかからない特論ではあります*1

 

公益社団法人日本実験動物学会:講演会・講習会

 

管理者の研修なわけですが、今、全国の動物実験施設では深刻な予算不足が問題になっています。大学本体の運営費交付金の縮小を受けて、動物実験施設にまわせるお金も少なくなってくるというわけなんですが、これまで何回かに分けて書いてきた環境の維持が難しくなってくるという問題が出てくるんですよね

 

飼育環境を一定にすることは何故重要なのか? ―イントロ― - doubutsutokuronの日記

飼育環境を一定にすることは何故重要なのか?その1 ―温度― - doubutsutokuronの日記

飼育環境を一定にすることは何故重要なのか?その2 ―湿度― - doubutsutokuronの日記

 

 

で、この環境維持に一番お金がかかるのが、「温度」ではなく実は「湿度」なんですね(またまた実は温度と湿度は同時に制御しないといけないわけですが)。この辺はいずれまた書きます。

 

今回の研修で、ちょっとでもランニングコスト削減の糸口が見えればと思う特論でした。

*1:お察し下さい

「卵子の染色体の特定の物質外れると流産に」というNHKの記事を私が書くとしたら

 ドーモ、元気いっぱい就活生の特論=サンです。

 

国立成育医療センターのプレスリリース

"正常な胎盤及び胚の発育に必須の卵子 X 染色体の活動を維持する仕組みを解明"

http://www.ncchd.go.jp/center/information/topic/images/topic141114-1.pdf

で、ぱんつさんが記事かいてたので


「卵子の染色体の特定の物質外れると流産に」というNHKの記事を僕が書くとしたら - アレ待チろまねすく

 

 

乗っかってみることにしたよ。

 

 国立成育医療センターの福田篤研究員と阿久津英憲生殖医療研究部長のグループが、受精卵が母親の子宮内で無事に成長するための一つの「しるし」を明らかにしました。

 ヒトを含めた哺乳類の受精卵は、そのすべてが母親の子宮に着床し、子供になるわけではなく、着床できないものや、着床しても発生の途中で流産してしまうものが存在していることが知られています。

 今回、研究グループは、着床後に流産となるような受精卵のなかで、「X染色体不活性化」という現象が異常となっているケースに着目し、マウスを用いて研究を行いました。

 その結果、受精卵のなかでX染色体から発現するXist(イグジスト)という遺伝子の量を調節する「しるし」となる、核内タンパク質であるヒストンの特別な修飾を発見しました。このヒストンの特別な修飾を目印に、受精卵のなかでイグジストの量が調節され、異常な量のイグジストを持つ受精卵は流産するということがわかりました。

 研究グループは、新たに発見した「しるし」について、卵巣腫瘍や乳癌などの女性の腫瘍に関する研究や、ES細胞やiPS細胞などの品質管理にも役立つのではないかとコメントしています。(488文字)

 

”受精卵には品質(embryo quality)があって、それがある一定の域に達していないと、発生しなかったり、着床しなかったり、着床が維持されなかったりするという考え方があって、そのなかで品質の項目の一つが染色体分離機構の異常だったり、X染色体不活性化異常だったり、ミトコンドリアの異常だったりする” んですかね。

 

同じ両親から出てきた受精卵でも、子供になるものと、そうでないものがあるって、普通に考えると不思議ですよね。

 

先天的(遺伝的)にこれら「品質の項目」の異常があるものもあれば、後天的に異常となるものもあって、染色体分離機構の異常が母胎の加齢とともに増えてくることとか、今回のX染色体不活性化異常も、(先天的なものもあるかもしれないけど)後天的なものの説明として、説得力がある・・・ってことがインパクトあるじゃないかなーなんても思います。

 

もっと言えば、生殖補助医療で体外受精IVF)や顕微授精(ICSI)をすると、ほとんどの場合、複数個の受精卵が得られます。しかし、母胎への影響や、ガイドラインなどから、母親の子宮に戻す(embryo transfer)する受精卵はだいたい1個となってる場合が多いのですが、お医者さんが『その1つを選択する』場合に、”無事に着床して、流産しないような受精卵を選べるかどうか”という問題が生じます。その『1個』を選ぶ評価基準になるのかなーという点でも面白い発表ですね。

 

 

早く”シュウショク”したい、特論でした 

IMSR(International Mouse Strain Resource)を使って欲しいマウスを手に入れる その弐

色々あって本体の『動物学特論』が終わるので*1、その残滓のような"なにか"を綴っています、特論です。

 

前回の手順1でIMSRを使って、自分が目的としているマウスを検索したので、それ以降の手順について書いときたいと思います。

 

手順2 検索結果から欲しいマウスを選ぶ

f:id:doubutsutokuron:20141119124622j:plain

 

前回も少し書きましたが、この「系統名」の部分は国際命名規約というルールで書かれているので、そっちを知っとかないといけません。

 

例えば、shhで検索すると、

 

  1. B6;129-Shh<tm2Amc>/J
  2. B6.Cg-Shh<tm1(EGFP/cre)Cjt>/J
  3. STOCK Tg(Shh-EGFP)BF167Gsat/Mmmh

 

とか出てきます。実際のルールについては、きちんと日本語でも説明している文章が公開されてる*2ので、そちらを参照して下さい。

 

簡単にまとめると、左側が遺伝背景(バックグランド系統)で、ハイフン(STOCKの場合、スペース)より右側が遺伝子変異の情報です

 

ですので、

  1. のマウスは、C57BL/6と129の交雑系統がバックグランド(「;」はバッククロスが完了していない場合の記号)
  2. のマウスはC57BL/6がバックグランド(「.」は右側の系統から左側の系統にバッククロスが完了したという記号)
  3. のマウスは、バックグランドが不明(「STOCK」は由来が不明な場合の記号)

ということになります。

 

遺伝子の3文字表記の説明は別のところに譲るとして、大きく分けて、①変異導入*3ノックアウトの場合は、上付き文字でtmをつける②トランスジェニックの場合は、Tg( )で表記するとなっています。

 

ただ凄く注意が必要なのは、tmと表記してあるマウスでも単純なノックアウトだったり、loxPが入っていて、creと掛け合わせなくてはいけないものや、2のマウスのように、別の遺伝子がshh遺伝子座に発現しているもの(ノックイン)などありますので、

"必ず、遺伝子変異の情報はそれぞれのリソースバンクのリンクページでじっくりと確認すること"

が重要です。国際的なノックアウトマウス作製プロジェクト*4とかだとtmの右側で(EUCOMM)みたいに書いてあったり、ENUミュータジェネシスプロジェクトで作った変異体だと、突然変異体のように、上付き文字にtmつかなかったりもします。

 

じゃぁこの解説記事、意味ないじゃんか!と言われれば、ええ、まぁそうですね...

 

 

また、tmやTg( )の右横の数字とかアルファベットは、それぞれライン番号(同じラボ・人物が作った同じ遺伝子改変マウスにおける作った順番)とラボコード(作った人とかラボの記号)なので、ランダムインテグレーションを用いたトランスジェニックマウスの時には、重要な記号になります*5。同様に、KOの時は、欠失している部位などがラインによって違う場合があるため、注意が必要です

 

 

手順3 マウスを導入する方法を考える

 

このブログを読んでる海外の研究者の方なんてたぶん、ほとんどいないでしょうから、日本向けに。

 

①RepositoryがRBRC、CARDになっている場合

一番簡単です。すぐにRBRCなら理研BRC、CARDなら熊本大学CARDに連絡して下さい

 

②RepositoryがJAXになっている場合

この場合も、割と簡単です。日本チャールズリバー(あるいはその取次店)に連絡すると購入できます。ただ、Statesが「Live」の場合はすんなりと行きますが、「Sperm」や「Embryo」になってる場合は、ちょっと時間とお金が余計かかったりします。今のところ、JAXから凍結精子や受精卵を直接購入するのは、チャールズリバーは取り扱ってくれないんですよね...

 

③RepositoryがMMRRCになっている場合

MMRRC*6って、NIHのサポートで遺伝子改変マウスの保管してる機関ですね。この場合は、Statesがほとんど「Sperm」と「Embryo」になっていると思います。

 

ここで特論=サンがおススメするのが、「Sperm」での導入です

理由は、①生体導入よりも値段が安い、②導入までの時間が短い、③SPFクリーニングと原理的に同じIVF-ET(体外受精胚移植)を行うので、受け入れ機関での検疫がいらない(※必要な施設もあります)、④ドライシッパーの輸送なので手続きが簡単などなど。実際には、ポチッとした後に、メールでやりとりして、ワールド・クウリアー*7(ワールド・クーリエ)に持ってきてもらって、所属されてる研究機関の動物実験施設に引き渡して、IVF-ETしてもらうだけです。

 

所属してる機関で、凍結精子からのIVF-ETができない場合は、理研BRCさんで代行してもらえます*8。私も仕事もらえれば*9、やります

 

④RepositoryがEMになっている場合

EM...響きがなんかアレ。EU圏のEMMA(The European Mouse Mutant Archive)*10のことです。

この場合で一番手っ取り早いのは、Embryo」での導入です。受精卵を買って、ドライシッパーで送ってもらって、以下、③と同じです。

 

このケースでも、所属してる機関で凍結受精卵からのET(胚移植)ができない場合には、理研BRCさんに代行してもらうことが可能です

 

 

他にもTIGM(Texas A&M Institute for Genomic Medicine)あるけど、長くなったんでこの辺で。

 

特論でした

 

*1:お察し下さい

*2:マウス系統の学術命名規約 « -実験動物開発室-

*3:ご指摘いただき、修正しました

*4:International Knockout Mouse Consortium - MartSearch

*5:受精卵へのマイクロインジェクションで、ランダムインテグレーションによって遺伝子導入された場合、胚移植後、同じ日に生まれてきたマウス同士でも、導入遺伝子のコピー数が異なるため、表現形が変わってくることがあるため

*6:Welcome to the MMRRC

*7:http://premium.ipros.jp/worldcourier/

*8:FIMRe機関の凍結マウスリソースの個体化の申込み手順 « -実験動物開発室-

*9:お察し下さい

*10:EMMA - the European Mouse Mutant Archive , https://www.infrafrontier.eu/

IMSR(International Mouse Strain Resource)を使って欲しいマウスを手に入れる その壱

 

だいぶサボっていましたが、本当の『動物学特論』の方の講義が諸事情*1、今年で終わってしまったので、使えそうな部分だけブログに書いときます。

 

講義スライドをバンバンどっかに貼ってもいいのかもしれないけど、授業でやるときの「複製の例外」には該当しないだろうからね。

 

”世界中に無数にある遺伝子組換えマウスのリソースの中で、自分の研究に使いたいときにどういう手続きをすればいいのか?”ということを中心に書こうと思います。

特論=サンは、某リソースバンクで働いていた事もあったりなかったりするので、この辺、得意です

 

手順1 IMSR(http://www.findmice.org/)を使って、欲しいマウスを探す

 

まずは検索から。検索と言っても、自分が欲しいマウスは、Jackson研究所に居るのか、理研BRCに居るのかわからない時ってありますよね。そういうリソースバンク間も横断的に調べるときはIMSRがおススメです

 

The IMSR is a searchable online database of mouse strains, stocks, and mutant ES cell lines available worldwide, including inbred, mutant, and genetically engineered strains. The goal of the IMSR is to assist the international scientific community in locating and obtaining mouse resources for research. Note that the data content found in the IMSR is as supplied by strain repository holders.  

 

ちゃんとした説明するとメンドクサイのでやめますが、遺伝子組換えマウスがいっぱい出来てくると『日本で作ったのも、アメリカで使いたい』とか『MMRRCのマウスが欲しい』とか要望が出てくるもんなので、大き目のリソースバンクが協力して、自分たちの持ってるリソースの情報をアップしようぜ!という取り組みです。

このサイトとは別に、取り組み自体*2は、特論=サンが学生の頃からあるので、歴史は意外と古いものです

 

 

方法ですが、

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これだけで十分です。脚なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ。

 

どっちかというと、検索結果が出た後が問題です。

 

 

とはいえ、特論なんで、ちょっと蛇足気味な話も書いとくと、

 

  • 「組換えの種類」で絞り込みたい

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この機能は、まー普通使わないですね

 

  • 「保存されている状態」に条件をつけたい

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検索して『やった!マウスいる!!』となっても、残念、ES細胞だけでしたーなんてことがないようにこの機能を・・・普段は使いません

 

ただ、所属してる研究機関で凍結精子や凍結受精卵からの個体復元ができない場合は、ちょっと重要になってきます。それは、その弐とかで書きます

 

  • マウスの「種類」で絞り込む

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普段の目的では、ほとんど使いません。僕はちょっとトリッキーなマウス使って研究してるので、この機能使ったりしますけどね

 

  • 検索するリソースバンクの範囲を決める

 

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予算との兼ね合いなので、ここは重要ですね。ただ、ほとんどのマウスの場合、JAX(アメリカ)、MMRRC(アメリカ)、EMMA(イタリア)、RBRC(日本)、CARD(日本)のどこかでヒットするので、まずは深く考えずに、「検索検索ぅ!」で構いません

 

 

手順2 検索結果から欲しいマウスを選ぶ

 

ただ、検索結果は、マウスの国際命名規約がわかってないと一見しただけでは読めなくなっています

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国際命名規約については、


凄いスピードで走らない方の”F1” - doubutsutokuronの日記

 

で紹介してますが、「その弐」でもう一度おさらいします。

 

 

えっ!?検索してもtargeting ESしか出てこなかった?

よーし、ESのインジェクションをしてくれる『NPO法人発生工学研究会』に相談だ!(有料)

 

KO支援|NPO法人 発生工学研究会 - 大阪大学

 

 

次回は見つけた後の海外から輸入する時の手続きとかその辺を、説明します。

 

特論でした

*1:お察し下さい

*2:The Federation of International Mouse Resources (FIMRe), http://www.fimre.org/

マウスの話だと思った?・・・残念!コモンマーモセットちゃんでした

道端で『 やぁ、もう来年の配属先決まったかい?』なんてフランクな挨拶いただいたもんですから、空手か少林寺拳法道場を検索してたりします、動物学特論です。

 

今回は、巷で有名なコモンマーモセット(Callithrix jacchus)について書いときたいと思います。夢の超大型グラントでも対象動物になったもんね!

 

コモンマーモセットの有用性は、著名な先生方がいろいろ書かれて、公開されているので、そちらを参照して下さい

 

遺伝子改変コモンマーモセットを用いた神経科学研究の進捗

 

あと、サリドマイドに対する反応がヒトと近かったことや、他の霊長類よりも世代時間が短いなどの点から、発生毒性をはじめとする毒性試験への応用研究も検討されていたりします*1

 

 

 

 コモンマーモセットが日本に入ってきた歴史的なもの

そういう生物学的なところは本職の皆さまのHPをみていただくのが一番として、特論ブログは、「コモンマーモセットが何で日本でいっぱい居るのか?」みたいなところにフォーカスあてて書いていきたいと思います。

 

コモンマーモセットが実験動物として日本で研究され始めたのは意外にも古くて、1975年の文部省特定研究「実験動物の純化と開発」の「小型霊長類の実験動物化」という研究プロジェクトに遡ります*2

 

この「実験動物の純化と開発」ってプロジェクトの主宰は、国立遺伝学研究所の故・吉田俊秀先生ですが、同じグラントで国産マウスの遺伝的背景の均一化やSPF化やウズラの実験動物化などを検討しているので、日本はマウスやウズラ、コモンマーモセットなどがほぼ同時に実験動物として樹立していったという珍しい研究環境だったようです*3

 

ちなみに、このときのコモンマーモセットの元となる”種親”は、イギリスの某巨大薬品企業から購入しています。元々野生でいたところから買ってたわけじゃないんですね。

 

特定研究班の分担として、現在の公益財団法人 実験動物中央研究所が研究に携わったことで、その後、コモンマーモセットの研究はこの研究機関で盛んに行われるようになり、近年では遺伝子組換えコモンマーモセットなどもここで誕生しています*4

 

その後、実験動物中央研究所の販売部門が株式会社化した日本クレアで、現在もコモンマーモセットの販売が行われるようになった・・という経緯なんですね(他の由来のコロニーもあります)。

 

 

 

コモンマーモセットの生殖特性

これらの古くからの検討をもって、現在の容易な繁殖環境の実現などが可能になってるわけですけど、特論=サンとしては生殖生理学が気になるところなので調べてみました。

 

コモンマーモセットの特性と実験利用

コモンマーモセットの特性と実験利用

 

 

 

  • 交尾を始める雄の月齢は11~14カ月齢で、14カ月齢ではほとんどの雄が初交尾を経験していた
  • 雄のテストステロン量が成獣と同等になるのは12.6±1.3ヶ月齢であった
  • 雌のプロジェステロン量についても、ほぼ同様であった
  • 雄雌ともに性成熟は12ヶ月齢付近と考えられる

 

10年以上生きるのに、脱童貞早くね?リア充爆発し(ry

 

一方、雌には少し面白い傾向があることが報告されています

 

  • ペアリングの時期を早くすると、特に未成熟な雌を用いる場合は、妊娠率が低く、初妊娠月齢が遅れる傾向にあった

 

これはちょっと性行動とかの研究したら面白そう。

 

  • 妊娠期間は5~8ヶ月で、なかでも5ヶ月のものが多く、初産~2産後の次の妊娠成立までの時間が長くなる傾向があった
  • 1回の出産で生まれる子は1~5匹で、2匹(12ペア・各12産分, 40.5%)と3匹(48.8%)が多かった。
  • 離乳率は母親に依存し、また初産・2産では離乳率が低い傾向がみられた

 

この部分は一般的には「2匹」と言われているため、初期のコロニーと現在のコロニーでは様子が違うのかもしれません。

 

 

以上、散文的につらつらと書いてきましたが、結論としては、僕もコモンマーモセットの研究やりたいってことなんですよね。

 

動物学特論でした

*1:古くはこことか 

https://kaken.nii.ac.jp/d/p/03680044.ja.html あとは  

http://www.sumitomo-chem.co.jp/rd/report/theses/docs/20000206_89y.pdf とか

*2:このグラントの直前にサリドマイドの反応がヒトと似ているとの報告がされています。その後は、科学技術振興調整費などの研究費で研究が継続されていきました

*3:国立遺伝学研究所60年のあゆみってページ面白い 

http://www.nig.ac.jp/museum/anime/genomusi/nig60/index.html 

*4:

Sasaki E et al. "Generation of transgenic non-human primates with germline transmission" Nature 459:523-7, 2009

http://www.ciea.or.jp/division5.html 

凄いスピードで走らない方の”F1”

年度の切り替えで色んな雑務が山積みになってる皆さん、ドーモ。任期終わるのに、来年の関連書類を作成してる、特論=サンです。バクハツシサン!

 

 

さて、色んな報道もあって、”例のあの方”の問題は科学的には片付くような気がしますが、動物学特論としては「F1マウス」について、書いておかないといけないと思ってます。報道で勘違いが多いんですが、F1マウスっていう凄く早そうな固有のマウスがいるわけではないです。

 

マウスおよびラットの命名方法はルールがあって、日本語でも公開されています

http://www.jalas.jp/pdf/iczn.pdf

ただ、上の日本語版だと致命的なことに、本文のリンクが間違ってるので、張っておきますね

MGI-Guidelines for Nomenclature of Mouse and Rat Strains

 

この場合、Fはフォーミュラではなく、Filial(=雑種世代の, 子の)の頭文字です*1。このFは近交系同士の交配の世代数にも使います。

 

「F1マウス」って単に書かれると、「交雑第1世代のマウス」ってことを意味してますので、どんなマウスなのか想像することできないんですね。親の情報何にも書いてないことになるので。

 

 

最初の頃の記事に書いたように、”近交系マウスはほとんどの遺伝子がhomoとして維持されているマウス”ですので、近交系と近交系の掛け合わせ第一世代(F1)は、すべての遺伝子をheteroに持つ個体になります。ですので、F1マウスは近交系ではありませんが、ゲノムの構成が明らかなので、系統と同じように扱います

 

 

今回の事例だと、129X1(旧名 129/Sv)とC57BL/6の掛け合わせですので、

129B6F1:雌が129X1、雄がC57BL/6

B6129F1:雌がC57BL/6、雄が129X1

の2種類のマウスが生まれる可能性があり、これらを雌雄逆転交配(reciprocal cross)とか呼んだりします。この両者の場合、ミトコンドリアDNAとY染色体が異なることになりますね。

 

命名法のルールで、”左側に(最初に)雌の系統名を書く”ということになっているので、某所で話題のマウスは雌が129X1ってことになるわけです。

 

 

ちなみに、B6129F1マウスは、タコニックで販売しています*2

http://www.taconic.com/cs/Satellite?blobcol=urlimage&blobkey=id&blobtable=TA_Media&blobwhere=1347208719268&ssbinary=true

(写真はタコニック社より引用 http://www.taconic.com/B6129

 

このF1マウス同士を掛け合わせる(inter cross)と、交雑第二世代のF2マウスとなります。このF2マウスは、それぞれの染色体について、元の両親のどちらのものを持っているかがわからなくなるため、雑種(Outbred)となります。

 

例えば、

129B6F1 X 129B6F1の交配で生まれた129B6F2マウスは、ミトコンドリアDNAが129X1、Y染色体がC57BL/6由来という以外は、すべての染色体でどちらの親由来かはわかりません。 

加えて、卵子精子の生産過程で、染色体の相同組換えも起こるので、F2マウスのゲノム構成はバリエーションに富んでいることになります。

 

 

左が雌で右が雄、交配自体の記号は「×」で系統名では省略可。ついでに「/」は近交系における亜系統を分ける記号なので、交配やF1・F2マウスには使わないってことだけ覚えて下さいね。テストに出します! ・・・講義もってないけど

 

追記:

Q 例のあのお方はなんでF1マウスを使ったの?

A それ、本人に聞かないとわかりませんよ。ただ、一般的にはマウスの細胞、特に卵子や胚などは、近交系由来だと弱いことが昔から言われていて、発生工学の材料としてB6C3F1などの雑種を用いるのはよくあります。

*1:ですので、戻し交配であるバッククロスの場合は、Fは使わずNを使います。あれ?そういえば、このNって何の略だっけ?

*2:特殊な系統については、Jackson研究所でも販売しています http://jaxmice.jax.org/strain/100409.html 

ESについても問題なく作れるみたいです Jean-François Schmouth et al. "Non-coding-regulatory regions of human brain genes delineated by bacterial artificial chromosome knock-in mice" BMC Biology 2013, 11:106 とか