実験動物管理者、始めました(ペントバルビタールの代わりの話)
ドーモ、深夜アニメがいっぱいあるので東京で働きたくなりましたが、アテはありません、特論=サンです。
前回書いたように、「第4回 実験動物管理者研修」に行ってきました。
二日間、朝から夕方までぶっ通しで講義を受けるという、結構ハードな研修なんですが、法令から動物福祉、日常管理と初学者から実際の管理業務を行う教員まで、それなりに色んな新しいことが学べる研修だったと思います*1
※講習会のテキストは、作成者の著作なので、UPしません。基本的には常識の範囲内の引用のみです
ペントバルビタール単剤投与が「不適切な麻酔」になりつつある点について
なかでも、マウス・ラットの麻酔の話は興味深かったので、記事にしようと思いました。国立国際医療研究センターの岡村先生が講師でした。
たぶん、一度お会いしたような気もしなくもないけど、向こうは、当然特論の事など知らない、くらいのアウエー感で講義受けてるという縛りプレイ前提です。
私が学生の頃はネンブタール(ペントバルビタール)麻酔が一般的で、これまで使い続けてきたんですが、疼痛の管理が難しいことや、麻酔時の動物死亡事故が多いことから、規制の方向に進んでいました。それが、最近の海外の教科書でも「不適切な麻酔」として書かれたらしく*2、いよいよ使えなくなってきているそうです(ジエチルエーテルと、アバチンなども)。
せやかて工藤
そうなると、注射麻酔としてはケタミン/キシラジン、吸入麻酔としてはイソフルラン、セボフルランとなってくるわけですが、吸入麻酔は器具が高いし(1台 60万円前後)、ケタミン/キシラジンは麻薬研究者とって管理が大変だし・・・
ということで、岡村先生のグループでは、メデトミジン(α2アドレナリン受容体作動薬)、ミダゾラム(ベンゾジアゼピン系麻酔導入薬・鎮静薬)、ブトルファノール(オピオイドリガンド)の三種混合剤*3を使用していて、プロトコールを公開しています
"三種混合麻酔薬と拮抗薬((独)国立国際医療研究センター研究所 動物実験施設)"
http://www.rincgm.jp/department/lab/08/pdf/mouse.pdf
現状のメリット
・i.p.で効く
・効果が早い(i.p.後3.6分くらいから効き始める)
・メデトミジンの拮抗薬であるアチパメゾールを打つことで、速やかに覚醒させることができる(ここ重要, 実験室でぼーっと待っている時間が短くなる)
・三種混合した薬剤は、室温で1ヶ月は保管可能
・受精卵移植に用いた場合、着床率・産仔率に影響はない(これは吸入麻酔でも同じ)
デメリット
・記憶などの麻酔薬で影響があると言われているような領域での使用例は、これまでのところない
・覚醒後の体温変化が吸入麻酔とは異なる
まぁいずれにしても、私も同様の実験を行って、効果を確かめてみようと思います。
蛇足
研修のテキストで、次のような文章が複数あるんですが、
BALB/c ・繁殖、飼育が容易
DBA/2 ・聴原性てんかんを起こしやすい
過去記事にも書いてるんですが、
虹を掴むマウス・BALB/c - doubutsutokuronの日記
BALB/cは亜系統によって、”増えやすさ”が異なることが知られています。容易に繁殖できるのは、ByやA亜系の話であって、元々のBALB/c系統全般に言えることでないです。
あと、DBA/2はasp2の変異を持っているため、確かに若い個体では聴原性の発作を頻発しますが、成獣では感受性は低くなります。というのも、彼らは加齢により(離乳期から始まる)高頻度で難聴となりますので、但し書きなしで、前述のような書き方はあまりしません*5
というわけで、晴れて研修が終わり「実験動物管理者」となりましたが、給料は代わりません。特論でした。
追記(2015年3月10日)
どうやらこの3種の薬剤、地方によっては買うのが難しい場合があるようです。私の職場の自治体と隣の件では、研究機関向けの販売窓口ありませんでした(臨床獣医師さん向けとは別)。なんとか購入できそうですが、メモまで
*1:2015年度は京都と、東京で2回開催されるようなので、ご参考までに
*2:Flecknell, P. Laboratory Animal Anaesthesia 3rd Ed. Academic Press 2010
Fish, R. E. et al Ed. Anesthesia and Analgesia in Laboratory Animals 2nd Ed. Academic Press 2008
*3:Kawai S, Takagi Y, Kaneko S, Kurosawa T. ”Effect of three types of mixed anesthetic agents alternate to ketamine in mice.” Exp Anim. 2011;60(5):481-7.
*4:困ったことに日本語の教科書とか説明してるサイトでも多くがこう書いてたりしますが