飼育環境を一定にすることは何故重要なのか?その2 ―湿度―
来年度の就職先が確定しないまま前期が過ぎ去っていくときの恐怖感は何年経っても慣れませんね、動物学特論です。胃と歯が痛いです。
前回、温度を一定にする意味を書きましたので、次は湿度(相対湿度)について講義しようと思います。
湿度を一定にするということの重要性
梅雨時期にジメジメして冬はカサカサする日本では、この項目のコントロールが一番難しいような気がします。建物的には、加湿は簡単にできるんですけど、除湿って結構制御が難しいんですよね。
湿度がラットの飼育管理に重要であることは、かなり古くから発見されていた「ring-tail」*1と呼ばれる、ラットの尾がリング状に壊死する現象と湿度が関連するという知見によります。
この現象は、(1) 一定の室温下で、低湿度環境に曝露すると頻繁に生じることが知られており、さらに (2) ラット系統間で発生頻度に差があること、(3) 床敷きや餌で軽減できることが示されています。また2000年代になって、表皮の肥厚と過角化が起こっていることが示されました*2。この状態のラットを実験に用いるってことは、当然おススメできません。
一方、マウスでは高湿度・低湿度条件下で離乳前の死亡率が上昇することが報告されています*3。また、ICRマウスでは、特に高温環境下(30℃以上)で高湿条件飼育の場合、心拍数や体温、呼吸回数が増加することも報告されています。
このように、温度と同様に、マウスの繁殖群やラットで、実験データに影響を与えることが示唆されています。
実際の相対湿度基準
日本での基準は*4
東北大学:望ましい基準値 40%~60% 許容範囲 30%~70%
長崎大学:40~60%(30%以下若しくは70%以上になってはならない)
となっていることが多いと思います。
で、諸外国がどういう基準範囲を使っているかと言うと、Guide for the Care and Use of Laboratory Animals*5では、やはり30-70%のRHを基準としています。
また、
Microenvironmental relative humidity may be of greater importance for animals housed in a primary enclosure in which the environmental conditions differ greatly from those of the macroenvironment (e.g., in static filter-top [isolator] cages).
と書かれているように、静圧式のフィルタートップ*6なんかを使っている場合ではさらに注意が必要だと言われています。
また高湿度条件下では、ケージ内のアンモニア濃度とも関連しながら(特にマイクロアイソレーターケージなどにおいて)、マウスの鼻腔に特に影響を与えると言われています。
いずれにしても、これらの制御は室温や換気回数など別の制御因子とも密接に関連するため、一般の実験室を改装した飼育室ではなかなか難しいのが現状です。
まとめ
- マウス繁殖維持群やラットの飼育維持には、湿度管理が重要である
- フィルタートップやマイクロアイソレーターケージを使用する時は、ケージ内の飼育頭数の管理する・床敷きの交換頻度を上げるなど、部屋の湿度に比べてさらに慎重に湿度を管理する必要がある
- なるべく中央動物実験施設を使用する(懲りずにステマ)
またイントロにも別の理由で少し書きましたが、ラットのブラケット式自動水洗飼育ケージ(下が金網になってるタイプ)は、床敷きがないため、余計に湿度や温度の影響を受けると言われています。まず、なるべく使わない事をおススメします
*1:時々訳本でラットとアライグマが・・・ってされてるけど、違いますよw
*2:Crippa L et al. "Ringtail in suckling Munich Wistar Fromter rats: a histopathologic study". Comp Med. 2000;50(5):536-9.
*3:Clough G. "Environmental effects on animals used in biomedical research". Biol Rev 1982;57:487-523.
*4:いつもの2大学。外部から全部見れるって意味で選んでます。例えば東大なんかだと、外部からは一部しか見れないので
*5:http://grants.nih.gov/grants/olaw/Guide-for-the-care-and-use-of-laboratory-animals.pdf
*6:免疫不全動物なんかを飼育するために、マイクロアイソレーターラックの代わりに使うもの。こんなのとか http://www.nazme.co.jp/products/products_detail.php?no=KN-617&id=74 歴史的にはフィルタートップの代わりにマイクロアイソレーターラックが登場したわけですが